家族と介護のお話 その1

80歳代半ばのK婆ちゃんには、3人の息子がいました。
息子や孫達が会いに来てくれることが一番の楽しみです。


もともとK婆ちゃんは長男夫婦と同居していたのですが、ご多分に漏れず長男の嫁とそりが合わず、一触即発状態からからくも三男坊が拉致同然に引き取ったとの経緯がありました。
K婆ちゃんにしてみれば、自分の家に同居させてやっているとの認識ですから、介護ヘルパーの資格まで取り面倒見てやっていると認識している嫁と上手くいくはずがありません。
気の強い口の達者なK婆ちゃんも、気の強い長男の嫁もどっちもどっちですが、中に入った長男の不甲斐無さが一番の原因と三男坊は考えています。むしろ長い間よくぞ我慢して面倒を見てくれたと長男の嫁に感謝すらしております。
ところでこの長男、至って人柄は良いのですが妙に古風なところがあり、長男が親の面倒を見るのは当たり前、したがって長男の嫁が義理の親を見るのは当たり前との考えですから、嫁さんに感謝の気持ちとそれに似合った行動を執るべきところをノホホンとしていたのです。因ってむしろ嫁さんの憤慨は長男に向かっていたとも推察できます。(多分あたっています・・・・・) 嫁さんに優しい感謝の言葉や、尻のひとつも撫でていればここまで悪化はしなかったはずです。一番大切なことは嫁さんの愚痴を聞いてあげることだと三男坊は思っています。


K婆ちゃんにすれば、自分の家から出る理由がありません。当然に抵抗しました。そこでマメな三男坊は一計を案じ、温泉療法を望んでいたK婆ちゃんに温泉療養型介護施設を探してきました。K婆ちゃんには風光明媚団体生活型長期湯治施設と説明したのです。まぁ介護という単語を外しただけで大きな違いは無いはずです。
K婆ちゃんにしてみれば自分の家から車で小1時間程度ですし、馴染みの病院も中間にあるしで、望んでいた温泉にタップリ浸かれると思ってOKを出しました。
ところがこの施設完成したばっかりというか未だ完成していない部分もあり、なんと温泉がまだ繋がっていなかったのです。当然不満タラタラで怒り出したK婆ちゃんですが、直ぐに繋がるからと三男坊が嘘を付き捲り宥(なだ)めて何とか入居させました。(温泉が完備されたのは2ヵ月後でした。)
K婆ちゃんにも長男の嫁さんとの軋轢をこのままにしていてはいけないとの気持ちがあったのでしょうし、それなりに感謝の気持ちもあったのでしょう。(三男坊はそー信じています。) 何か釈然としないままでしょうがとりあえず生活してみることになりました。


捨てる神あれば拾う神あり、100人近く収容できるこの新設施設にK婆ちゃんは10番目位に入居したのです。後から入ってくる婆ちゃん連中に一目置かれる存在に自然になっていったのです。人に頼られれば俄然とハリキルK婆ちゃんです。寝具の設置や、食堂の調理にまで口を出し、K婆ちゃんなりの改善策を次々と提案して行きました。あげく施設長を口説きカラオケセットを導入させ、カラオケクラブやコーラスクラブまで始めました。施設のスタッフもそんなK婆ちゃんを上手くおだてて重宝に活用(利用)してくれます。K婆ちゃんの毎日は充実したものになりました。